大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 平成4年(わ)425号 判決 1992年12月17日

本籍

福岡県嘉穂郡碓井町大字飯田六番地の一

住居

福岡県筑紫野市大字原一六六番地の一〇〇

電気設備管理請負業

伊藤孝司

昭和二二年一〇月一八日生

本籍

福岡県糸島郡志摩町大字野北二〇〇七番地

住居

福岡市城南区別府五丁目一三番地二六号権藤多恵子方

建設労務者

高田信之

昭和八年五月一二日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官小川新二、同川見裕之出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人両名をいずれも懲役一年に処する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日からいずれも四年間それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は、大塚こと趙万吉(分離前相被告人)、山本こと鄭博司、中森律美らと共謀のうえ、右中森が代表取締役で不動産の売買等を目的とする東邦ビルド株式会社(本店の所在地=広島市中区東白島町一七番一八号)の業務に関し、法人税を免れようと企て、同会社がその所有する土地を売却するに際し、同会社と真実の買受人との間に、東商開発有限会社及び有限会社高田エンタープライズ(代表取締役は被告人高田信之)が買受人、売渡人として順次介在しているように仮装した売買契約書を作成して売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、右東邦ビルド株式会社の昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度における実際所得金額が五億一、二五七万四、五七〇円で、課税土地譲渡利益金額が七億四、〇三五万八、〇〇〇円であったにもかかわらず、平成二年二月二七日、広島市中区上八丁掘三番一九号所在の所轄広島東税務署において、同税務署長に対し、同事業年度における所得金額が七、二七二万四、五一一円で、課税土地譲渡利益金額が二億八、三六〇万九、〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億〇、五〇八万八、七〇〇円である旨の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同事業年度分の法人税額四億二、六八五万〇、四〇〇円と右申告額との差額三億二、一七六万一、七〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

注………括弧内の漢数字は検察官請求番号

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  被告人伊藤孝司(五九ないし六九)、同高田信之(七一ないし七九)の検察官に対する各供述調書

一  分離前相被告人大塚こと趙万吉の検察官に対する各供述調書(八〇ないし九〇)

一  次の者の検察官に対する各供述調書謄本

中森律美(五二ないし五六)、平山宏勝(四六ないし四七)、松岡弘喜(一一)、内田隆司(一二ないし一四)、澤田敏昭(一五)、宮崎数人(一六ないし一八)、佐々木賢治(一九ないし二三)、北田隆雄(二四、二五)、大番久恵(二六)、榎本賢(二七)、山本信子(二八、二九)、佐藤秀明(三〇、三一)、桜井聖義(三二)、阿曽沼謹吾(三三、三四)、田丸隆士(三五、三六)、小松美恵(三七ないし三九)、野村忠男こと金昌雲(四〇)、平尾泰保(五七)

一  裁判所書記官作成の広島地方裁判所平成四年(わ)第三三三号等事件第一回公判調書謄本(九九)

一  検察事務官作成の報告書(一〇〇)

一  大蔵事務官作成の

1  減価償却費調査書(謄本・二)

2  雑収入調査書(謄本・三)

3  新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入額調査書(謄本・四)

4  土地譲渡利益金額調査書(謄本・五)

5  調査事績報告書三通(いずれも謄本・四一ないし四三)

一  検察事務官作成の報告書(六)

一  登記官作成の登記簿謄本二通、(七、八)及び閉鎖登記簿謄本二通(九、一〇)

一  検察官作成の捜査関係事項照会書謄本(四四)

一  広島貯金事務センター所長作成の捜査関係事項照会回答書謄本(四五)

(弁護人の主張に対する判断)

被告人伊藤の弁護人は、次の点を理由に同被告人の無罪を主張するので、念のために当裁判所の判断の概要を次のとおり補足する。

一  被告人伊藤には東邦ビルド株式会社の業務に関して脱税することの認識がないから本件犯意を認めるを得ず、この点について中森律美と共謀した事実もない旨の主張について

関係証拠によれば、東邦ビルド株式会社がその所有土地を日産プリンス広島販売株式会社に売却するに際し、東邦ビルド株式会社の代表取締役中森律美において、その売却代金の一部を除外して法人税を免れることを企て、東商開発有限会社の経営者山本こと鄭博司及び分離前相被告人大塚こと趙万吉を通じて、右売買の中間に東商開発有限会社及び有限会社高田エンタープライズを介在させたことは客観的に明白であり、また被告人伊藤において、真実の売主が取得すべき売買代金の一部を除外する方法による脱税工作のために何ら実体のない「ペーパーカンパニー」である有限会社高田エンタープライズを虚偽の売買当事者として介在させることを認容し、右会社の代表者印を被告人高田から預かって自ら内容虚偽の売買契約書の作成等に関与していたことも明らかである。そして被告人伊藤は、捜査段階における供述調書において、直接かつ真実の売主が東邦ビルド株式会社であることを知っていた旨述べていることが認められるうえ、仮に右売主の名義や名称をしかく具体的かつ正確に認識していなかったとしても、右のような事実関係が認められる以上、右態様による法人税ほ脱の犯意としては何ら欠けるところはないと言うべきである。また、右のような脱税工作につき、右中森から鄭、趙を経て被告人伊藤に至るまで順次共謀が成立したことも前掲関係証拠により十分に認めることができるところである。よってこれらの点についての前記主張は採用することができない。

二  法人税法違反の主体は、法人税法一五九条一項に規定されているように、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者に限定されると解すべきところ、被告人伊藤はこれらのいずれにも該当しないから、その犯罪主体となり得ない旨の主張について

確かに法人税法一五九条一項は、法人税ほ脱犯の実行行為者たる者を限定しており、その意味においてこれらは真正身分犯であると解せられるが、その身分のない者も、刑法六五条一項によりその共同正犯となり得るものと解すべきであるから、この点の主張も採用することができない。

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為につき、いずれも刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項

刑種の選択 懲役刑

被告人両名に対する刑の執行猶予につき、いずれも刑法二五条一項

(脱税額は多額であり、犯行態様も巧妙悪質で、多額の報酬欲しさから本件不正行為に加担した動機にも酌量の余地が乏しく、社会的影響も甚大であって被告人両名の刑責は重大であるが、他の共犯者に比べると被告人両名の加功程度及び態様は若干従属的と言えること、いずれも前科がなく、捜査段階においては素直に自供していることなどを考慮)

被告人高田信之の訴訟費用につき、刑事訴訟法一八一条一項但書

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤戸憲二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例